(3)
「お前ら!」叫びながら体育館の裏へ着いた時に見たのは、蹲る3人の影があった。
「うぐっぅぅ、部長ぉ。助けて下さい。」
陽が段々と傾き始めるオレンジ色の中、一つの立っている影と3つの蹲る影があった。
オレンジ色の中の絵としては素晴らしいと言えるほど綺麗に映っていた。
あれ?
意味が分からない。
本来なら逆の絵図が開いている所だろうが・・・。
今は何故か2年生たちが倒れていた。
「草野・・・コレは何だ?」
しかし草野は喋らず頬を僅かに吊り上げているように見えた。
「いぇ別に大した事があった分けではないですわ部長。うふ、ただ・・・先輩方がテニスも下手なら喧嘩も下手だったていうことだけですわ。」
草野は、コレが何か?と言わんばかりの事を言った。私は混乱する頭を整理しながら草野を問いただす。
「そんな事は聞いてない。何をしたらこうなる。」
私の顔は怒っているだろう、何に?分からない・・・。
「何おって・・・。特に何も。」
「草野―――!」そう言いかけてた途中で背後から。
「小林、一体何時までやっているつもりだぁ。先生そろそろ帰りたいんだが。」
「い、今終わりますから。」そういったときには既に竹田先生は全てが見渡せるところまで来ていた。
結局、5人は職員室に連れて行かれる事になった。途中、職員室前の待合椅子に拓斗が座っていたが話し掛けることもできず中に連れて行かれた。職員室には竹田先生しか残っておらず、先生を囲み私達が立つという形で話が進行した。
「で、一体なにがどうなっているんだ。」イライラした様に話を進め。
「別に大した事ではありません、先輩に呼ばれたので顔を出したら急に襲われたので正当防衛を働いただけですわよ。」
「本当か。」と話しを振られた草野の後ろに立つ2年生3人は首を縦に振るだけで認めた。「部長は何をしていた。」返答に困った、一部始終を知っていたし、私一人で解決しようと思っていたから先生には何も言ってないし、どうするか・・・。考えている内に。
「部長はたまたま居合わせただけですわ。」と草野が間に入るが、そんな草野のフォロー蹴るように。
「いえ、全てを知っていました。」と告白した。
その後も1時間弱に渡り説教が続き処分が言い渡された。
まず、2年生の3人組は退部。もしくは1ヶ月の早朝の掃除だったが彼女らは退部を選んだ。
次に、草野であるが来年の夏までの大会出場停止。まぁこれについては他の一年生と同様の扱いになっただけだった。
そして、最後に部長である実早。彼女は特に被害者、加害者のどちらでもなかったが問題を報告せずに隠していた事により、大会の出場停止と1週間の早朝の掃除の両方という他の者よりも重い処分を受けた。
職員室を出ると、2年生の3人は逃げるように帰って行った。
待っていた拓斗と共に校舎を出て学校に備え付けられている時計を見ると8時を回ろうとしていた。
そのまま校舎を出た所で「小林部長!」と草野が話し掛けてきた。
その声に振り向くと、草野が駆け寄ってきた。
「部長。すいません、まさか部長まで巻き込む事になるなんて。本当にすいませんでした。」普段の高飛車な態度からは想像できない様子で実早に謝ってきた。
「気にすんなって。まぁ何だ、自業自得ってやつだ。お前もだけど。」
そう言って笑ってやると草野も笑い返してきた。実早の草野野草に対する見方が変わるきっかでもあった。
(4)
私は少し周囲を敵視しすぎたのかもしれない。
野草は、帰り道。自分の勝手な行動が思った以上な被害を出した所為で暗く沈んだ気持ちでの帰路となった。
実早部長は気さくに全てを丸く収めてくれたが、反省点の方が多く。いや反省点しかなく部活さえ辞めようと思う。
私は大会なんて出れなくて良い。でも・・・部長まで巻き込み最後の試合さえも出場できなくなってしまった。
これは、とりかえしがつかない。
どうしよう・・・。
悩んでもしょうがないけど、部活を辞めれば済むという問題でもない。
だとしたら、現状で何か先輩に恩返し。いや。思い出になるようなそんな事ができないだろうか?
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暗い夜道の中、コレといった答えが出ずに家に着いた。家に入ると夕飯のいい匂いがする。
「ただいま。」
返事は無い。居間までの道をとりあえず歩く。
「ただいま。」
ドアを開けて再度、帰宅を知らせる挨拶をした。
しかし、兄は部屋には居なくて部屋を挟んだ庭に居た。
何をしているかと言うと。・・・木刀を振っている。剣道家がやる様な素早いものでは無く一打、一打をビュンビュンと正確な太刀筋を確かめるように振っている。
部屋から丁度、見える位置で。丁度照明が当たるようなそんな位置。真剣なまなざしで振っている。
竹刀と違い木刀は刀身が重く刀のような反りがあり本物の刀のような見た目である。
唯一の違いは鍔(つば)が無いこと事くらいだろう。
振り上げては渾身で振り下ろす。ソレを繰り返している。
一見するとかなりかっこいい見栄えになるだろう。
しかし、うちの兄貴は馬鹿である。いや真面目に馬鹿をやっていると言い換えられるだろう。
どこが馬鹿かというと、
パンツ一丁で
サンダルを履いて
庭で木刀を真面目に振っている。
そのうえ、日は完全に落ちていて外は真っ暗である、ボクサーパンツ一丁の男は部屋の明かりにライトアップされその裸体がとても目立つ。
一振りするたびに汗が落ち、その汗すらも光輝いている。
集中している為、その行動を超真面目にやっている。知らない人が見たら笑うだろう。いやそれ以前に警察沙汰だ。
「やぁ、お帰り。遅かったじゃないか?」
やっと妹の帰宅に気付いたらしくのんきに返事をくれた。
「おなか空いているだろう?今準備するから。」
と、居間に上がり何気なく食事の準備をしようとエプロンをおもむろに着用しようとした。
「いやいや、兄貴。お風呂・・・入ってきたら?汗だくだよ。それに、その格好でエプロンはないだろう」
私は笑いが入らないように気を付けながら兄貴の裸エプロンを阻止する。いつもは食後の運動にやっている行動なので私の帰りが遅いから行動をシフトしたのだろう。
パンツ一丁はいつものことだから気にしないがパンツにエプロンは無い!
「ははっ、それもそうだね。でも野草もお風呂入りたいだろ?
ボクは別にあとでもいいよ?その間準備しておくから。」
なるほど、私がお風呂から出たら裸エプロンでお出迎え・・・おい!ドコの執事がそんな面白いことするかよ。まぁ兄貴は執事ではないけど・・・
「いいよ、兄貴の方がたくさん汗かいているみたいだし。
お風呂から出ててからでも大丈夫だから。」
「そう?じゃあ先入るね。」
そう言ってパンツ一丁の変態は風呂場へ向かった。
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周囲が虫の鳴き声で満たされ。時刻は9時を回ろうとしていた。
森の奥深くにある屋敷ではテレビの撮影クルーが忍び込もうとしていた。
クルー達は玄関から入れないと分かると、現場監督の指示で窓を割り中へ入る入り口を作り、進入口を作り屋敷の中へ進んでいった。
5人程のチームを組まされた彼らは嫌々ながらも荒れ果てた屋敷の中に暗視スコープ付のカメラを数台設置。
幽霊屋敷と呼ばれると呼ばれるそこは、多数の怪談話が有るため彼らは本気で早く設置を終えて屋敷を出たいと渋々思っていた
・・・・
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テレビでは、いつもと食事の時間が違うため、見慣れないドラマを見ながらの食事となった。
画面内では明るい学園ドラマが日常を送っていた。
しかし、私は先行き暗い学園ドラマを送らなければいけない。現実とドラマの差が心に何か重くドロっとしたものが流れ込んでくるような感覚に襲われた。
目の前の食事は本来なら美味しそうに写るだろうが。
何だか今は違う物に写ってしまう。
どうだろう、何か、私らしくない・・・
とりあえず兄貴にでも相談してみようか・・・でもまともな意見はもらえそうにないかも。
ただウジウジとしていてもしょうがないけど・・・う〜ん、こんな兄貴に相談しても・・・
「野草、どうしたの。食事が美味しくないのかい?全然進んでないけど・・・。もしかして、お兄ちゃんの”愛”が足りないとか!」
「うるせぇ、馬鹿兄貴。悩み事だよ!食事は普通!」
「普通か・・・。やはり愛が・・・。」
「だから違うって。
・・・あのさ、ちょっと相談があるんだけど。」
それから、食事の箸を緩め、帰ってくるまでの事を兄貴に話した。
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