2001年9月

夏休みが終わり、登校日初日。

みんながみんな誰かとしゃべりたいのか、廊下、教室全ての場所が雑音にまみれていた。

うるさい、うるさい。

まるで、その騒音は自分を責め立てているようで、この空間から抜け出したかった。
(アレ、そういや。野中の奴は休み?)
(野中ってあの草野と仲いいやつ?)
(そうそれ、初日から休みとはいいかげんな奴だな。)
(ちょっと、男子。野中の話題は禁止。)


そんな会話が耳に入ってくる。
(何で?)(いいから。これ以上話を広げないで。)(はいはい。)
(委員長怖いな。草野なら何か知っているんじゃないか?)

「おーい、草野。野中の事何か知らない?」そう言って机を囲んだ。
「ごめん、あまり体長が良くないんだ。少し静かにしてもらってもいいかな。」ボクは出来るだけ静かにやり過ごす。
それでも、話題を振られたことにより、頭の中は熱くなり、みんながみんなボクの事を疑っている様で、本気で嫌になった。今年の4月にここへ転入して来たばかりであるが、最初の夏休みでいきなり嫌な思いをした。本当は登校なんてしたくなかった。

(まさか、例の怪談話とか関係してくるのかな。)
(え、怪談って?)(ほら、夏休みに入る前にさ。)
(ああ、あの郊外の森の屋敷には幽霊が住んでてってやつか。)
(そうそう、それよ。それが何か関係してるんじゃないの。)

草野草子ことボクは、生涯始めて悲しい経験をした。しかし、どう足掻こうが、事実をひっくり返す事が出来きない、起こってしまった事は変えられない。それによって負った悲しみは復讐を誓う心となる。

この怪談は年を重ねる毎に尾ひれをつけて語り継がれるなどそのときの草子考えてもいなかった。




2005年7月

この学校でも夏休み前になると生徒達の落ち着かない雰囲気で校内は満たされている。
市内唯一の高等学校。市内の中学卒業生は大体がこの学校へ進む。大学を目指す生徒は稀に都会にもでたりするが、大体はここへ集まる。近代化が進むまではこの辺りには学校などは無く。隣町まで歩いて通っていた時代があるなど今の生徒たちは知る由も無い。

生徒達全員が全員浮ついているわけでは無く、運動部などに所属している生徒は夏の大会が近い為、少し緊迫した空気を持っている。
テニス部もそれは同様であった。
が、テニス部はそれとは違う緊迫も併せ持っていた。この間の練習の際、大会出場者が発表された。簡単なトーナメントを行い、それに準じた出場者の発表であったが。今年入ったばかりの1年生が加えらたことに部内が騒然した。当の本人はそ知らぬ顔で「わかりました、謹んでお受けいたしますわ。」とレギュラー落ちした先輩に不敵な微笑みを向けていた。以前から特定の部活内の先輩に目を付けられていた野草は更に火に油を注ぐようなまねをした。

そのお陰で、終業式が終わった今の部活中も空気が引きつる様に緊迫していた。
部長である、小林実早は練習を楽しく明るくやりたいと考えている為この空気をどうにかしたかった。しかし、実際にどうすることも出来ずに眉に皺を寄せ部活動の様子を監督している。
そこへ、幼馴染である花宮拓斗がコソコソと近づいてきて話掛けてきた。
「なぁ実早、何か空気が重くない?」
「さぁ、おまえは空気なんか気になる性質じゃないだろ。」
「いや、これはさすがに気になるよ。」
「それより、練習中なんだけど。いくら玉拾いで暇だからって話掛けるな。それに、わたし、部長だぞ。」
「知ってるよ。はは。はぁい、じゃあ部長が怖いので去ります。」

ストップウォッチを見ながら時間の区切りを確かめ、実早は号令を掛ける。

「交代―――――!今打ってない人が次はコートに入って。」


練習は夕方の6時まで続き。1年はコートの片付けをしていた。野草も同様に体育館裏にある倉庫で備品の片付けをしていた。
そこへ、3人の2年生が来ていた。まだ練習着の所を見ると、様子を伺って野草が一人になるところを見計らって話掛けてきたようだった。
「あら、先輩方どうかなさいました。」とても不敵である。
その様子に更に感情を逆撫でされた3人は、野草の胸倉を掴み上げ。
「着替えたら。ここに来い。」
それだけを言うと、掴んでいた手を勢い良く放し去っていた。


(1)


私は今年の4月にこの学校に入学してきた。
親の仕事の都合であるが、兄が先にこっちにきていた為。それを追うように引っ越してきて、その流れで入学した。

引っ越した当初はコッチの不便さに四苦八苦したものだが、住めば都という言葉があるように。
8月にもなれば十分に慣れてしまった。買い物はコンビ二があれば十分だし、服や食品は自転車で30分程のところにあるハトのマークで十分だった。


しかし、学校まではそう上手く進めなかった。

最初から人付き合いの苦手な私はクラスに馴染めなかった。もちろん、自分以外のクラスの住民は中学からの友人も居るようで誰かしらと話をしている。
だから、入学当初クラスで浮いた存在になっていた。

そんな私の立ち位置は2,3ヶ月経っても変わらず。常にクラスでは孤独だった。

もちろん部活も同様だった。最初は体が動かせればと思った部活もクラスと同様に私はどこか浮いていた。

私と同じに数人の女子がテニス部に入部し、同じ期間を過した。にもかかわらず扱いは大きく違った。

「まぁ原因は私に有るんだけど・・・」

原因はそう自分にある、他の子が先輩に可愛がられる理由があるように、私には嫌われる理由があった。
それを自覚するのは1ヶ月が経ったあたりだろうか。

他の子がまだ素振りや、玉拾いをする中。私はコートで先輩から直々にコーチを受けるようになっていた。
最初は何故、自分がと思い実早部長に聞いてみると。

「あぁ、お前は何か筋がいいらしいよ。だから顧問が打線が安定したらコートに入れてやれって。」
「はぁそうですか。」
「そうそう、私から見てもお前は良い線してるとおもうぞ。反応は良いし。良く動くしな。」
「はぁ・・」


と、まぁ。そんな理由で私が他の子よりも優遇されてコーチを受けていた。
もちろんソレが、側から見たら先輩から可愛がれているようにも見えなくも無いが。
先輩も本当は教えたくは無いのだろう、本当に面倒だと言わんばかりの態度で教えてくれた。
失敗すれば怒られ、成功すればふ〜ん。した態度。



そして、そんな事が続く中で夏季大会の選考が行われ。私が選ばれてしまった。

「正直嬉しくは無い。しかし決まってしまった以上はやら無ければならない。」

そこから私の態度は大きく変わった。いや、変えなければとてもじゃないがコレからの風当たりに対抗して行けなかった。

練習もこれまでよりも激しく、酷くなった。


 私もソレに対して、「お願いしますわ、先輩方。」と強気にでる
ソレが気に入らなかったのか、打ち返される球もコレまで以上に強く、速く。嫌な位置に返される。

私の態度は此方の返す球にも表れた。

いや、もちろん打出される球が強ければ。返される球も強くなる。そして速ければ速く・・。

その球が偶然にも先輩のデッドボールコースになったのは事故で決して狙って打った訳ではない、だから事故。

先輩の太もも付近に強打したボールはコロコロと転がり先輩の悲痛な表情はコッチを睨み付けていた。

「アラァ、ごめんなさい先輩。大丈夫ですかぁ??」

その先輩はそのまま保健室へ。

それから、練習はピリピリとした空気になった・・・・。



(2)

 着替え室の鍵を取りに行っていた実早と拓斗が隣の校舎からその様子を見ていた。偶然、体育館裏での様子が外階段を降りようとした時に目に入った。

 「あいつら・・・・。」
 「落ち着け実早。着替えたらここに来いって言っていたから、行くならそのときだ。」
チッと、舌打ちしてその場をスルーして着替え室のある校舎へと向かった。

野草は着替えが終わる頃にはすっかり校内は静まり返り、教室に荷物を置き行きたくも無い体育館裏へ向かった。
(あの頭の悪い先輩達を黙らせなきゃ。)
体育館裏に着くと「遅えぇぇよ。草野!」という言葉をいきなり投げかけられた。「あらあら、ごめんあそばせ。どうかなさいましたの先輩方「わんわん。」とまるで犬の遠吠えですわね。うふふ。」
「あぁ!なんだと?1年のくせに。」
「ちょっと大会でられるからって調子に乗らないでくれる!」
「あんた目ざわりなのよ。」
そういって3人は野草を囲み襲い掛かかった。



一方で部長こと実早と幼馴染である拓斗は職員室に呼ばれ顧問の竹田に練習中の空気をどうにか出来ないかという話を受けていた。
「2年生の生徒がやりにくいからどうにかして欲しいってな。」
どうにか、ならんかねぇとぼやく竹田は話を続ける。

2年生?あれこれってもしかして足止め?

そう考えていると、拓斗に肩を叩かれた。
(なぁ実早、これってもしかして。)と耳打ちで話かけてくる。
(ああ、さっきの件が間違いなく関係してるな。)
(実早、先に行ってくれ。ここはオレが先生の相手をするからよ。)
うん、と首から上で返し。「先生、備品でしまい忘れのものがあるんでちょっと行ってきます。すぐ戻ります。」
「ああ、そうか。暗いから気を付けろよ。」

 鍵を受け取り。足早に職員室を出た。
職員室からは、「花宮、お前なぁ遅刻が多すぎる。学校は部活をする所じゃないぞ。」と竹田の声が聞こえてきた。

ああ、そういえば拓斗は別件で呼ばれたのか。足止めでは無く、ただ拓斗は職員室から出られないだけだった。まぁそんなことはどうでもいい。今は草野が危険だ、あいつら卑怯な手を使いやがって・・・・。
校舎から出ると、走るように体育館裏へと急いだ。もうすでに辺りは暗く、体育館の明かりも消えている。静寂であるはずの空間から物が壊れるような渇いた音が響く、


間違いない体育館裏にいる。

でもこの音は・・・もう手遅れか・・・。




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